■第16話 香水■
2012 年 1 月 26 日 木曜日
第16話 香水
「ねぇ、香水変えた?」
「変えてないよ。いつもの。」
香水を変えた覚えはない。だけど、違うと感じたのは私だけじゃなかった。
首筋の香りも、Kissの味も。昔のそれとは違っていたから。
ほんの少しの違和感に気づいた時には、答えは静かに決められた一つの方向へ動き始めていた。
自分の気持ちはもう、誤魔化せない。
扉越しに交わした最後のKiss。
「もう、行くね。」
「終電に間に合わなかったら、戻っておいでよ。」
二人で暮らしていた時もそうだった。
下着姿の彼が部屋にいて、玄関先で私が彼の名を呼ぶ。じゃあねのキスをせがむのだ。
そして、いつも二人はドアの前で口づけを交わして、しばらくの間別れた。
だけど、もうドアの向こうへは戻ることは無いとその時悟った。此処へは二度と戻らないと。
そうと決めて私は直ぐさま走った。転びそうになる位に寒空の町を大きな荷物を抱え、とにかく走った。
飛び散る涙の雫だけが頬の上をそっと温め、間に合った車内では、いちゃつくカップルをポカンと眺めた。
私は帰宅し、まずお湯をバスタブに貯めて、熱いシャワーを浴びた。
そして、ドレッサーの前で嘘みたいに長い時間を過ごした。
(きっと香水の数程、彼との思い出がある。)
並べられた瓶の蓋を一つづつスーッと指でなぞらえながら、そう思ってしまった。
一つの恋が終わる度に私は自分の香りを瓶に封印し、香水を変えてしまう。
また新しい “ 私の匂い ” を見つけるのだ。
その後手にした新しいパフュームを、次に出逢う彼はきっと気に入るのだろう。
そして、その男はきっとこう囁く。
(梨花の匂い。いい匂いだね。)
Rika





