第7話「焦げたベーグル」

 他に女がいても関係ないって思ってた。けど、やっぱり終わりがくると悲しいもので。あの夜、ヒロは仕事じゃなくて別の女に逢いに行っていた。これからは、私以外の他の娘と人生を共にするらしい。また一人ぼっちになっちゃった。何か悲しいね。最初から心に決めていたのに。ただ、止まり木が欲しくて。彼に他に女がいても関係ない、私は怒らないし問い詰めたりもしない。気づかないフリをするだけだから。

「あの時、私のこと好きだった?」

「ごめんな。俺が全部悪いんだ。
 でも、一緒に居て楽しかった。好きだったのは本当だよ。」

 サヨナラする前に、一言だけ彼に聞いてみた。一つだけ確かめたくて。その返事を聞いてどうなるとか、心が治まるとかは無かったけど、あの特別な関係を無意味には捉えたくなかった、絶対に。その言葉を聞いて、少しだけ心が救われた気がしたんだ。

 彼は独り暮らしだから、いつもタオルは半乾きで、タンスの中もぐちゃぐちゃだった。仕事から帰って来たら“俺の入れるミルクティーは世界一美味しい”
とか言って甘いミルクティーと、お店で余ったベーグルを焼いてくれる。私は温かいフカフカの靴下を借りて、少しだけ笑顔になる。寝る前には、大好きなスノーボードのYou Tubeをエンドレスで流されて、“早くスノボ行きたいわ〜”って隣で興奮していた(笑)。

 あの後、湧き上がる悲しみが証明したのは、私が本気で愛していたという事実。素直には認めたくないけど、自分の心はごまかしきれなかった。短い時間、特別な記憶をありがとう。

 

第8話「Space」

 一つの恋が終わる度、心の奥に大きなスペースができる。広い部屋の隅っこで独り、解けた脚を遠くに放り投げた。だんだん冷たい床に体温が奪われていく。見上げた空はいつもより綺麗。何故だろう?涙って温かいな。空いた空間の大きさに少し驚いた。その穴を、また別の何かで埋めようとしている。未だ分からない、別の何かで。その繰り返しで、もう正直しんどいです。(笑)

待つだけの恋、追いかける恋、駆け引きの恋。
どの恋愛にも纏わりつく、“付合う”という言葉の自縛。その悪魔の呪文から始めて逃れ、私は自由気ままに未だ見ぬ誰かを愛してみる。

 逢いたくなったら、逢いに行けばいい。
 寂しくなったら、寂しいと云えばいい。
 欲しくなったら、欲しがればいい。

“人間は頭で恋をする。だから辛い。私は心で恋をしよう。”

嗚呼だこうだと頭で考え始めると、楽しい恋なんて出来ないだろう。音楽も同じ。心で揺れて感じた方が気持ちいいでしょ。
それから、私は少し変わった。この生き方が合っているようです。今の自分がとても好きです。

第9話「甘い」

 授業中、最前の席で大泣きした女がいた。
一日中、うつ伏せになって泣きながら寝ている女がいた。
休み時間も伏せて過ごし、移動教室の時も下を向いたまま。
ようやく重たい頭を上げ、ノートでもとるのかと思えば、また黙って机に涙を落とす。
窓の隙間から光の束が差し込み、風がそれを邪魔する。

その様子を傍でずっと見ていた娘がいた。
彼女は私に、「あなた、ずっと泣いてたけど。映画みたいに綺麗ね。」と耳打ちした。

私の不器用さを、誉めてくれた人。初めてだった。
生まれて最初に覚えた単語の様に、その言葉を愛おしく、大事に思えた。
そして、私は悲しむのをやめた。

 その記憶と似てる。私の涙を食べた男。
沈むたびに零れる涙と甘くけだるい空気の塊。
リズムに合わせ震える指で舵を取ると、息をするのを忘れてしまう。
彼はそっと私の顔に近づき、舌を頬にぐっと押し当て綺麗に味わった。
私の心を強く揺さぶりながら。暗闇で繋がった光の音色の様に。

しばらくしてから「甘いね。」と言って、二人は並んで笑顔になった。

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