第10話「DuDaLuda」

私に甘い男。

彼と一緒に過ごして1年以上経つが、未だに私は自分から愛の言葉を囁いたり、彼の本当の名前を呼んだ事がない。いつも私はハグラカシて、思いついたままに、変なあだ名で彼を呼ぶ。ある時は“ DuDaLuda ”で、機嫌がいい時は“ NyaNya ”だったりする。そして、私は彼の腕にそっと手を伸ばし、決まり事の様にいつものアレを要求する。

「体が潰れるくらい!お願い、思いっきりハグして。」

「んぅ…」
(息が苦しい…)

この締め付ける圧迫が好き。体に溜まった膿みが外に押し出され、涙の玉が頬を転がり、頭がスッと軽くなっていく。この瞬間、私は空白になり、神に膝まついて懺悔している気分になる。

“愛した男には愛されず、
私に甘い男は素直に愛せない。悲しい。”

神様は本当に残酷で意地悪だ。
昔の男は、蛇みたいに冷たい目で私を上から見下ろし、道具みたいに扱う。
甘い男は、子犬みたいな目で私を眺め、唇に優しく指を当てて、こんな私を鎮める。

 

第11話「季節のせい」

(今年もまたこの季節がやって来たんだね。早いね。)

 お風呂上がり、部屋の窓を開け放ち四角い空を眺める。隙間からすべり込む夜風が火照った肌にまとわりつき、いつもより良い気分。青臭くどこか懐かしい香りもする。

(元気でやってるかな…)

数分後、どうしようもない寂しさが訪れると、昔の恋愛が頭をよぎる。ラジオから、思い出のナンバーが流れ出した時もそう。ある種似た胸騒ぎがするのだ。過去にいくら滅茶苦茶な別れ方をした相手でも、その時ばかりは少しだけ愛おしくなる。あの時は、愛しさあまり嫉妬し、自分自身と相手を痛めつけていたのに。月日が経てば、こんなにも寛大に優しく相手を思えるのだから、おかしいな(笑)

 そんな、かつての恋を窓辺にざっと並べ、遠くから眺めてみた。あくまで客観的に。
嘘でも戻りたいとは思わない。でも、急に逢いたくなってしまった。昔の記憶にね。
それとも、恋に恋してる自分に逢いたくなったのかな? それが正しいのだと思う。
躯中に電気が走り、恋に落ちる快感。今日はその危うい感覚を求めている。
どちらにしろ、突飛な行動に出たことは確かだ。それも全部、この季節の変わり目が仕向けたこと。誰かのせいにしよう。私にも相手にも、それぞれ別の人がいるから。だから、逆に安心している。その気がないから。

“近くにいても、心に触れる事が出来ない。この先もずっと。”

彼は、季節の変わり目になるとやって来る。その日は、決まって冷たい風が吹くのだ。
衣替えしたはずなのに、ウールのカーディガンが必要な時もある。ふと存在を思い出しては、夜な夜なタンスの奥から引っぱり出し、自分の気が済めば大事に畳んでなおしてしまう。このゲームの様な距離感が、ふとした瞬間に愛おしくなり、無性に欲しくなるのかもしれない。 そしてまた、“誰かに躯ごと落ちてみたい。”と思う。

 

第12話「嫉妬」

「他の娘と寝てもいいよ。」

「そんなの嫌だよ。」

 あなたに対する自分の気持ちに驚いたの。認めたくない訳じゃないけど、こんなにも凄く臆病になってしまう私がいる。あなたが高みにのぼってしまうんじゃないかと。恋愛の勝ち負けじゃないけど、本当に負けた気になるから嫌。ごめんなさい。だから、やっぱり素直にはなれない。認めてしまうと私が駄目になる。心の奥が見透かされない様に、虚勢を張って強気にでてしまうんだ。そういう時は、あなたが嫌がる顔が見たいわ。

 周りの世界がどんどん良いものに見えてくる。全てが私の敵のように。自分以外の誰か羨んで、ありもしない事を想像してしまう。女だから。本当にばかだよね。醜いと自覚しているから尚更、自己嫌悪。こうやって、あからさまに苛立つ態度が尚さら子供っぽいね。

“どんなワガママも聞いてくれるね、許してくれるね。”

“どうして優しいだけなの?あなたに恋して、傷ついてみたいのに。”

 昔はずっとあの詩の主人公の気持ちだった。自分に無償の愛情を注いでくれる男を、何故自分は愛せないのか。それとも、恋ではなく、ある種の愛だったから…よからぬ荒波を立てずに済んだのか。しかし、それが恋だというと訳は違う。事態は急変する。手段を選ばない私は、きっと全部をめちゃくちゃにしてしまう。あなたを追い込んで苦しめて、築きあげたもの全てを壊してしまう。そして、最後は気付かれないようにあなたの心から逃げ出すの。煩わしいこと全て投げ出して、姿を消すのよ。嗚呼、なんて身勝手な私。

 

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